ロードマップの策定に関する意見

2022年4月13日(水)~2022年4月24日(日)に実施された出入国在留管理庁の「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」に係る意見募集にありのすとして以下の意見提出をしました。
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ロードマップの策定に関する意見

令和4年4月24日

出入国在留管理庁政策課外国人施策推進室御中
ありのす 主宰 真野 蟻乃典
https://arinos.website/

 お世話になります。ありのす主宰の真野蟻乃典と申します。
 ありのすでは,日本語教育とその関連領域を中心とした各種情報の発信・共有を行っております。そうした視点から,また現職の日本語教員の立場から「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」の策定について,意見を提出いたします。

●「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)」について
1.「第1 基本的な考え方」について
 在留外国人や外国人労働者の増加や多様化に関して,政府や各省庁において各種の施策が提言・実施されてきたことについて簡潔にまとまっており,「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」による『意見書~共生社会の在り方及び中長期的な課題について~』(以下,意見書)を踏まえて,令和8年度(2026年度)までの5か年度の「中長期的な課題及び具体的施策を示すロードマップを策定」(p. 2)することとなった経緯がわかりやすく示されています。また,「政府一丸となって外国人との共生社会の実現に向けた環境整備を一層推進していくこととしたもの」(p. 2)という趣旨も非常に重要なものであり,国として外国人施策に関する中長期的なビジョンを持つことに賛同するとともに,ぜひ実現に向けて取り組んでいっていただきたいと考えます。
 ただ,ロードマップを策定する上で,意見書では在留外国人について「中長期在留者及び特別永住者をいう」(意見書:p. 9)と定義がされているように「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」における「外国人」ないし「在留外国人」という用語がどういった方々を指しているのか具体的な定義を示しておいたほうがよいと思います。これについては「外国人労働者」や次項以降で記述がある「外国にルーツを持つ者」「外国人住民」などに関しても同様のことが言えます。「外国人」という用語自体,法令や施策などによって考え方や捉え方に揺れがあるため,この機会にこの用語を国としてどのように考えるのかについての整理と定義が必要ではないでしょうか。

2.「第2 目指すべき外国人との共生社会のビジョン」について
 目指すべき共生社会の像として「① これからの日本社会を共につくる一員として外国人が包摂され,全ての人が安全に安心して暮らすことができる社会」「② 様々な背景を持つ外国人を含む全ての人が社会に参加し,能力を最大限に発揮できる,多様性に富んだ活力ある社会」「③ 外国人を含め,全ての人がお互いに個人の尊厳と人権を尊重し,差別や偏見なく暮らすことができる社会」という3つのビジョンが描かれたことについて賛同いたします。特に「外国人」を「日本人」と対比する形で取り出して「日本人」とは異なる異質な存在として記述するのではなく,「外国人を含む全ての人」という表現で全ての人間がこの社会においてともに生きる当事者であることが示されている点は非常に重要です。「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」を理念とする「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」にも合致する考え方だと感じます。

3.「第3 重点事項」について
 前項の3つのビジョンを実現するための4つの重点事項として「① 円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組」「② 外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化」「③ ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援」「④ 共生社会の基盤整備に向けた取組」を設定したことについても,意見書の提言を踏まえたものであり,賛同いたします。日本における在留外国人支援や日本語教育に関しては長らくボランティアや民間団体が草の根で支えてきた面がありますが,具体的なビジョンや課題を示すことで,ここから先は国や地方公共団体が責任を持って取り組んでいくという旗幟を鮮明にすることが必要だと感じます。

4.「第4 重点事項に関する中長期的に取り組む施策」について
 前項の4つの重点事項に関して各府省庁から様々な施策が示され,それぞれ「(1)現状及び課題」「(2)5年後の目標」「(3)具体的な取組」がまとめられている点は良いと思います。しかし,取組に関しては重複(再掲)も多く,主管する府省庁も多岐に亘ることから,これらを一元的に見渡せる資料ないしウェブサイトなどがあるとより分かりやすいと感じます。これまでも政府や各省庁においては,「第1 基本的な考え方」でも言及されていたように在留外国人に関する様々な施策や取組が行われてきました。ところが,各府省庁では各自の管轄することに関しては情報発信・提供がなされていますが,他府省庁で行われていることに関しては情報が参照されていない場合もあり,情報の利用者側からすると全ての府省庁のウェブサイトを回って確認しなければならず,非常に見つけにくいということがありました。今回,ロードマップを策定し,国として外国人施策に関する道筋をつけるという方針なのであれば,これら全ての施策の進捗状況やその成果が一か所で確認できるように進めていただきたいと切に願います(「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の進捗状況のようにPDFでの一元化ではなく,各府省庁の施策ページにリンクを張るか,まとめのウェブページとして掲載していただきたいという趣旨です。)。

5.「第5 推進体制」について
 ロードマップの推進に関し,「1 計画期間」「2 実施状況の点検等」について異存ありません。特に毎年度の点検・確認と見直しを徹底していただければと思います。
 ただし,前項でも述べましたが,各府省庁にまたがって複数年度計画の施策・取組を推進していくものですから,それぞれの状況を見失わないようできるだけ全ての施策とその関係性が見渡せる形の情報公開をあわせて実施していただきたいと思います。

●「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(案)(概要)」について
 グラフなどを用いてそれぞれの項におけるポイントが分かりやすく示されていると思いますので,異存ありません。

●その他意見
 ロードマップの策定に関しては,非常に好意的に捉えており,その成果に期待もしております。一方で,上述した通り,各府省庁で分かれて施策が示されていることから,現状ではどんなに素晴らしい施策であってもどこにその情報があるのか,どんなことが行われているのかが分かりにくく,情報が届かず活用されていないということがあります。もちろん,市区町村や支援団体などでは有効に活用している事例も多いのですが,特に現場の個々の支援者・実践者となると,そうした情報まで追い切れていないのが現状ではないかと感じています。外国人当事者についても同様のことが言えると思います。
 こうした事態を解消するためにも,また,ロードマップの推進を円滑に進めるためにも,ロードマップを策定することに留まらず,国内における全ての施策・取組を取りまとめる国の部門が必要ではないかと感じます。理想的にはその部門の地方組織として各都道府県及び政令指定都市に外国人支援・日本語教育に係る情報を一元的に集約し,実務を担当する部署やセンターなどを設置することができると良いと思います。そこに新設される「外国人総合支援コーディネーター(仮称)」や「公認日本語教師(仮称)」のほか,現行の「外国人児童生徒等教育アドバイザー」や「外国人雇用管理アドバイザー」といったライフステージに応じた専門家を置き(必置し),管轄する都道府県下の外国人支援・日本語教育を一元的に取りまとめることができれば,外国人支援を取り巻く現状は大きく進歩すると考えます。あるいはまずは出入国在留管理庁が国の統括する部門となり,外国人当事者にも馴染みのある各地方出入国在留管理局・支局に実務を担当する部署やセンターを設置するということから始めても良いでしょう。そうしたことは実行できないでしょうか。ぜひ前向きにご検討いただけますと幸いです。

以上

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