日本語教育機関の告示基準の一部改定に関する意見

2022年1月25日(火)~2022年2月23日(水)に実施された出入国在留管理庁の日本語教育機関の告示基準の一部改定についての意見募集にありのすとして以下の意見提出をしました。
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日本語教育機関の告示基準の一部改定に関する意見

令和4年2月23日

出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課御中
ありのす 主宰 真野 蟻乃典
https://arinos.website/

 お世話になります。ありのす主宰の真野蟻乃典と申します。
 ありのすでは,日本語教育とその関連領域を中心とした各種情報の発信・共有を行っております。そうした視点から,また現職の日本語教員の立場から「日本語教育機関の告示基準の一部改定」について,意見を提出いたします。

●「1 改定の趣旨」について
 「運用状況を踏まえて」の改定である点はこれまでも既に三度改定されており,定期的な見直しを実施するという意味でも異存なく,賛同いたします。また,今後も「運用状況を踏まえて」,時代・状況に即した内容への改定が行われることに期待しております。
 一方で,具体的には後述しますが,本趣旨に副えば今回改定案として提示された内容以外にも軽微な所要の改定を含め,改定を検討すべきものがあると考えます。また,「日本語教育機関の告示基準」(以下,告示基準)が改定されるということは,その解釈を示した「日本語教育機関の告示基準解釈指針」(以下,解釈指針)も結果として改定されることとなります。告示基準に加え,解釈指針の文言にも実質的に適合する必要があることを鑑みると,本来であればあわせて改定案を提示すべきものであると感じます。

●「2 改定の概要」について
1.「(1)学則で定める事項の追加」について
 「健康診断の実施」について学則で定める事項に追加する点に異存ありません。重要性に加え,現行でも解釈指針において「リ その他日本語教育機関の運営に関して必要な事項」に該当する例として「健康診断に関する規定」が示されており,「日本語教育機関学則(モデル)」にも当該規定が記載されていることから,学則で定める事項に追加することは妥当であると考えます。
 一方で,検査項目は各機関の判断に任されていますが,告示基準第1条第1項第30号の解釈指針に示されている学校保健安全法の対象は,学校教育法第1条に規定する学校(いわゆる1条校)に限られることから,引き続き,学校保健安全法施行規則第6条に定められている検査項目に準じることに加えて,専修学校及び各種学校を対象に含む,すなわち日本語教育機関の一部を含む,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)第53条の2に定められている結核に係る定期の健康診断(以下,結核検診)についても参照すべきものとして言及しておく必要があると考えます。
 また,入国前結核スクリーニングが実施されることとなりましたが,これまでの状況を鑑みると,すり抜ける可能性も捨てきれず,この側面からも学校保健安全法施行規則の検査項目の中でも「結核の有無」(第6条第1項第8号)については,少なくとも胸部エックス線や喀痰などの具体的な検査の実施を推奨すべきではないでしょうか。実際,既に大阪市や沖縄県など日本語教育機関に対して結核検診を推奨し,補助金の対象としている行政も一部あります。日本語教育機関の設置者や所在地によって留学生が受けられる(受けなければならない)健康管理が異なるのは問題であると感じます。

2.「(2)校地及び校舎の所有権に係る基準の例外規定の追加」について
 校地及び校舎の所有権に係る基準の例外規定の追加については,地方公共団体による公的な日本語教育機関が開設されることを歓迎しますが,「地方公共団体」のみならず「国又は地方公共団体」として,国立の日本語教育機関を想定した文言とすることが望ましいと感じます。また,現行の「20年以上継続して留学生受入れ事業を行っている日本語教育機関」は,「設備及び編成に関してこれらに準ずる機関」として「教育機関」に含まれることから実質的な規制緩和となり,10年以上の実績のある日本語教育機関が複数校を展開しやすくなることが期待できます。告示基準の適合性を厳格に審査・確認していただくという前提であれば前向きな改定だと感じます。
 一方で,告示基準第1条第1項第3号では設置者が「日本語教育機関を経営するために必要な経済的基礎」と「識見」を有することについて「設置者が国又は地方公共団体である場合を除く」とされている点は気がかりです。校地及び校舎が自己所有でなく,経済的基礎及び識見も求められないとすると,設置者(地方公共団体)の負担は減って開設しやすくなりますが,質の担保という観点からは教員,教育課程,点検・評価などの適合性を他の日本語教育機関と同等以上に慎重に確認する必要があると感じます。

3.「(3)「日本語能力(原文ママ)の参照枠」の適用」について
 現行の「言語のためのヨーロッパ共通参照枠」(以下,CEFR)の「A2相当以上」を「日本語教育の参照枠」の「A2相当以上」と改める点に異存ありません。この規定は当初より「法務省告示をもって定められた日本語教育機関の教育に係る定期点検及び客観的指標に関する協力者会議」においても文化審議会国語分科会による検討結果がまとまるまでの当面の間の暫定的な措置としてCEFRを採用することとされていたものであることから,その検討結果として取りまとめられた「日本語教育の参照枠」及び『日本語教育の参照枠報告』の考え方を組み込むことは当然の流れであると考えられます。
 ただし,本改定とあわせて「日本語能力に関しCEFRのA2相当以上のレベルであることを証明するための試験のリスト」についても「日本語能力の参照枠」のA2相当以上であることを試験実施機関に確認した上で更新していただきたいと思います。その際,『日本語教育の参照枠報告』においては,従来の日本語能力の判定試験及び評価と「日本語教育の参照枠」の対応付けの手続が示されており,現行ではリストに掲載されている試験のみが告示基準第1条第1項第44号に規定する日本語能力に関する試験として認められていることから,今後,リストに掲載のない試験及び評価が独自に「日本語教育の参照枠」との対応関係を示した場合に「試験その他の評価方法により証明された者」に該当するのかどうかも示していただきたいと思います。
 また,課程修了(卒業)時の日本語習得状況を「日本語教育の参照枠」で参照するからには,日本語教育機関への入学に際して求められる日本語能力に関しても今後は「日本語教育の参照枠」を利用することが望ましく,在留資格認定証明書交付申請において活用できるようご検討をお願いいたします。

4.「(4)専任教員数に係る経過措置の延長」について
 専任教員数に係る経過措置を令和5年9月30日まで1年間延長する点について賛同いたします。ただし,日本語教育機関の採用計画にも影響することから本改定案適用後に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況によって再度,当初の期限に戻すなどの急な改定がないようご配慮いただければと思います。一方で,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けている日本語教員も多いことから,今後の感染拡大の状況を鑑みて柔軟な改定にも期待を寄せております。あくまで急な改定には慎重であるべきという趣旨でございます。なお,告示基準第1条第1項第12号の規定に関しては本来,早期に適用されるべきものであると理解しており,大いに賛同していることを付け加えておきます。

5. その他の改定について
 最後に今回の改定案には含まれておりませんが,その他の改定を検討すべき点についても意見を述べさせていただきます。
 まず,軽微な所要の改定として誤植の修正があります。例えば,告示基準第1条第1項第18号と同第19号の間の〔施設・設備(校地・校舎,教室等)〕のインデントが1マス右にずれていたり,同第6号ホの「授業時数」とされているものが解釈指針では「授業時間」と表記されていたりするものです。こうした誤植は今回の改定に限らず早期に修正・訂正する必要があるでしょう。
 次に,今般の新型コロナウイルス感染症による影響を鑑み,在留資格や告示基準の例外的な取扱いに関して「日本語教育機関における新型コロナウイルス感染症への対応について(Q&A)」が示されていますが,そうした例外的・緊急的な取扱いが告示基準にはあらかじめ定められておりません。今後も生じうる感染症のパンデミックのほか,大規模災害やテロなどの有事を想定した「緊急事態の発生によって相当数の日本語教育機関がこの基準に一時的に適合しないこととなることが見込まれる場合の緊急的な対応は別に定める」といった規定を雑則などの形であらかじめ組み込んでおくことが望ましいと考えます。また,現行では緊急的な措置として認められているオンラインによる授業など,既に一般的となっている事項については新型コロナウイルス感染症による影響が落ち着いてからの取扱いについて一律で不可とするのではなく再度あり方を検討していただければと思います。
 終わりに,「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下,総合的対応策)では当初「出席率をICTによる記録に基づき審査する」(施策番号59)とされ,「ICTの導入実績等」について調査しているとの進捗状況の報告がありました。また,総合的対応策令和2年度改定及び令和3年度改定においても「ICTにより記録された出席率等を基に」,「告示基準適合性に係る点検結果報告の適正性」の「的確な判断を行う」(令和2年度施策番号171,令和3年度施策番号176)とされており,日本語教育機関においてはICTを活用した出席率の把握・記録が望ましいという国の方針が感じられます。一方で,令和3年度改定の進捗状況では日本語教育機関の告示基準に基づく各種報告について「オンラインでの報告を可能にするとともに,当該報告等の内容についてICTを活用して把握している」とあり,「電子届出システム」による報告が可能となりました。総合的対応策で示されている国の施策であり,電子届出システムを活かすためにも例えば在籍管理に関する告示基準第1条第1項第36号の「個々の生徒の単位時間ごとの出欠を正確に把握するための適切な措置」に係る解釈指針において「ICTを活用した電磁的記録等による把握が望ましい」といった努力規定を追加するなどの対応が期待されます。

以上

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