お世話になります。ありのす主宰の真野蟻乃典と申します。
ありのすでは,日本語教育とその関連領域を中心とした各種情報の発信・共有を行っております。そうした視点から,また現職の日本語教員の立場から「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」に関し,意見を提出いたします。
1.「○はじめに」について
まずは,文化審議会国語分科会及び日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議において,日本語教師の資格化について,長くご議論,ご尽力いただき,誠にありがとうございます。
さて,本報告書を拝読し,「日本語教師の資格の在り方について(報告)」から一部見直しを行っていることについては承知しましたが,反対に見直しが行われなかった箇所については踏襲するという理解でよろしいのでしょうか。たとえば,名称独占の国家資格である点,名称を公認日本語教師とする点などです。時間がない中で恐縮ではありますが,そのあたりも意見募集を踏まえて,柔軟に対応・検討していただければと思います。
2.「○日本語教師の資格について―1. 日本語教師の資格の目的」について
本報告書が拠り所とする「日本語教育の推進に関する法律」では,日本語教師の資格に関する仕組みの整備として日本語教師の「能力及び資質の向上並びに処遇の改善が図られる」(第21条第1項)ことを求めているはずです。しかし,本報告書では「処遇の改善」に係る言及が一切見られず,目的からも見落とされています。「処遇の改善」には,いわゆる金銭的な待遇面のほか,社会的な認知度や必要性など,様々な側面が含まれていると考えられ,日本語教師の量的・質的な確保にも直結する重要な課題であるため追記すべきだと思います。
また,日本国外で日本語を教える日本語教師も多いですが,本報告書では日本国外の事例について言及されておらず,想定もされていません。しかし,「諸外国との交流の促進及び友好関係の維持発展」(p. 2)が目的に含まれるのであれば,日本国外で日本語教育に従事する者についての考え方も示す必要があると思います。
3.「○日本語教師の資格について―2. 資格取得要件」及び「<別紙資料1>」について
資格取得に試験の合格と教育実習の履修・修了が求められることに関しては,概ね賛成いたします。現時点で想定されている全体像も別紙1で確認・把握できました。年齢,国籍,母語を資格取得要件としないことも賛同いたします。試験についてなど個別の内容に関する意見はそれぞれの項で詳述したいと思います。
4.「○日本語教師の資格について―3. 試験の内容及び実施体制等(1)試験の内容等」について
まず,試験を筆記試験①と②の2つに区分し,それぞれ実践と現場対応能力につながる基礎的な知識・能力を測ることに関しても養成終了段階での試験ということを考えれば妥当であると思います。出題範囲についても異存ありませんが,時代に応じて変化する内容も含まれることから定期的に見直しを行うこととするのが望ましいと思います。
ただ,筆記試験を2つの科目として行うのであれば,それぞれは別々に受験できる仕組みがあると良いと思います。免除規定とも関わってくるでしょうし,まずは試験①だけ受けてみたいという希望もあると想定されるためです。また,音声を媒体とした出題形式が含まれるとのことですが,記述式の問題は含まれないのでしょうか。
それから,教育実習に加えて,ないし,代えて実技試験を課すという方向性もあり得ると思っております。制度開始当初からの導入が難しくても,少なくとも筆記試験において実技ベースの出題は必須であると考えます。その意味でも記述式についてもご検討ください。
次に,脚注(※3)で民間の判定試験として日本語教育能力検定試験と全養協日本語教師検定が挙げられていますが,どのような意図で例示しているのでしょうか。これらの判定試験を発展的に解消して新しい国家試験の枠組みに取り入れることを考えているのか,あくまでも民間の試験であって継続の判断はそれぞれの主催者が決めることであり,参考にはするかもしれないが流用することはないという意味なのかが見えません。
5.「○日本語教師の資格について―3. 試験の内容及び実施体制等(2)試験の実施体制等」について
文部科学大臣又は指定試験実施機関1機関が実施することについて異存ありません。また,年1回以上全国各地で実施すること,特段の受験要件や受験資格を設けないことなどについても概ね賛同いたします。ただし,制度創設直後は受験が必要となる現職者や現行の有資格者要件について様子見をしている資格取得希望者などの受験希望者が殺到する可能性もあることから,すべての受験希望者が受験できるよう年に複数回実施する,試験地を各都道府県に複数箇所以上設定するなど分散する工夫も検討していただきたいと思います。
なお,実際に最短で試験が実施される時期として想定されている令和6年以降には新型コロナウイルス感染症の状況がどのようになっているか予測がつかないため,たとえば一部免除が可能とされている科目(筆記試験①)に関してはCBT方式も検討するなど,できる限り柔軟な体制での実施を準備していただきたいと思います。
6.「○日本語教師の資格について―4. 指定試験実施機関及び指定登録機関に求められる役割」について
指定試験実施機関及び指定登録機関を指定することに関しては同意いたしますが,その業務については所管省庁として適合命令,指定の取消し,報告等の示されている項目を遂行するための新たな審議会等を文部科学省又は文化庁に設置して定期的に監督・検証するなど,資格の信頼性を確保するためのチェック体制を強化していただきたいと思います。また,指定試験実施機関及び指定登録機関は1機関ずつとされていますが,いずれも兼ねることは想定されているのでしょうか。その場合の運用の在り方やチェック体制についても別々の機関を指定する場合とは分けて改めてご検討をお願いいたします。
続いて試験委員の適性についてです。挙げられている3つの知識経験を有することを要求する点は概ね賛成いたしますが,その専門性をどのように証明するのかについては慎重な検討が必要であると考えます。大学教授・准教授であっても単に「日本語教育及びその関連領域に関する科目を担当」(p. 4)していれば良いわけではなく,また,必ずしも関連領域を含む日本語教育学を専門とする者が担当しているとも限らないことから,著書や論文などの業績を考慮に入れるなどより具体的な指標が必要だと思います。
「一定年数以上専任の日本語教師の職に従事した経験」(p. 4)を考慮することは現場の視点を取り入れるという観点からも有効であると考えられますが,こちらも年数のみに依るのではなく研究会等での実践研究の報告を重ねているかなど上述の大学教授・准教授の指標に準じる社会的な指標が必要だと思います。特に「専任の日本語教師の職」と言った場合,本報告書で目指している質保証や評価制度以前の現行の経歴を基準とすることになるため,より慎重であるべきだと強調しておきます。これらの課題に対して「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」に基づく日本語教育人材の研修プログラム普及事業で研修担当講師の育成にも取り組むこととされているように,試験委員の育成についても何らかの方法で制度設計に組み込んでいくべきではないでしょうか。
7.「○日本語教師の資格について―5. 教育実習」について
まず,報告書の書きぶりとして「5. 教育実習」の段階では指定日本語教師養成機関に関する定義・説明がなされていないため,次項「6. 指定日本語教師養成機関」と掲載する配置を入れ替えたほうが読みやすいと感じます。
次に内容に関して,資格取得の要件として指定日本語教師養成機関における教育実習の履修・修了を求める点については概ね賛同いたします。特にこれまでの養成では平成29年の「日本語教育機関の告示基準」(新基準)以前は,教育実習が必修化されていなかったことから現実の日本語学習者と全く相対することなく修了し,日本語教育人材として活躍する者も少なくはなかったことと思います。しかし「1単位時間以上の指導を2コマ以上」(p. 5)では心許ないため,単位数を増やすなど,今後も検討が必要であると考えます。
8.「○日本語教師の資格について―6. 指定日本語教師養成機関」について
まず,養成段階においては「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」で示された50項目に対応したカリキュラムで学ぶものとし,養成を行う機関を文部科学大臣が「指定日本語教師養成機関」として指定することについては異存ありません。しかし,ここで言う「指定日本語教師養成機関」というのは現行の「文化庁届出受理日本語教師養成研修実施機関」が移行することを想定したものなのでしょうか。そうであれば,日本語教師の質の保証の観点から考えると,これまでの養成段階には大きな課題があることが見えてきたわけですから,「新たな書類様式で確認を受ける」(p. 6)だけでは不十分であり,改めて初めから審査を受ける必要があると考えます。
さらに,民業圧迫にあたるとする見方もあると考えられますが,玉石混淆である民間の養成機関が国家試験免除に相当することを担保するのであれば,少なくとも現行の届出制ではなく,最低限,許認可制であることを明確にすべきです。仮に資格制度創設の前後で養成の質の変化が見られないのであれば,資格制度開始後の修了生にのみ免除規定が想定されることの正当性が担保されないと思います。
審査項目については,修了後の進路など可能な限り把握することとし,透明化を図ると同時に受講希望者や就職希望者の目安となるため,新たに加える必要があると思います。講師についても現行の基準がないため統一した基準を定め,どの養成機関を選択しても特色はあるにせよ,養成終了段階の質が整うように制度設計すべきではないでしょうか。
9.「○日本語教師の資格について―7. 試験の一部免除及び教育実習の免除」について
試験の一部免除や教育実習の免除について制度として想定することは必要であり,異存はありません。しかし,免除を行う以上,質の高い養成が行われていることを機関自体が明らかにする必要があり,その確認は怠るべきではありません。質のばらつきが出ないよう検討・設計していただきたいと切に願います。
また,免除規定が「資格取得の際の門戸を広げ,日本語教師の量の確保にも資する」(p. 6)のであれば,現行の有資格者に関しても「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」で示された50項目に対応したカリキュラムに準拠した養成を受けている者も多くいることから,同様の免除を検討すべきであると考えます。実務経験や研修受講歴等,現行の有資格者であるがゆえの考慮できる利点もあるのではないでしょうか。
10.「○日本語教師の資格について―8. 更新講習」について
「日本語教師の資格の在り方について(報告)」から更新講習の制度化が見直され,公認日本語教師の資格に更新制が導入されないこととなった経緯と理由については理解し,概ね賛同いたします。しかし,現状でも特に現職の日本語教師が自助的・自発的にキャリアステージに応じて定期的に講習や研修を受けることは様々な事情から難しく,関心を持たれない場合さえあります。そのため公認日本語教師の資質・能力の維持・向上を資格取得者の自主性や自己研鑽に任せるだけでは促進されないと予想されることから,報告書にもあるように研修環境の充実や必要なタイミングでの適切な研修機会の創出のため,採用する機関に研修の実施計画の提出と履行を義務付ける,日本語教育人材養成・研修カリキュラム等開発事業の活用を促すなど評価認定上の工夫のほか,受講すべき研修の種類や時期を目安として設定しておくことが良いのではないかと思います。また,現状の研修は玉石混淆であり,どこでどのような研修が実施されているのかも分かりにくいため,一覧でまとめたウェブページの作成などもご検討いただければ幸いです。
11.「○日本語教師の資格について―9. 学士以上の学位」について
「日本語教師の資格の在り方について(報告)」から学士以上の学位を求めることが見直された経緯と理由については理解し,賛同いたします。短期大学での養成課程が存在し,特に若い世代では専門学校や通信制大学などの多様な進路を選択するケースも多いことからも必要な配慮であると考えます。また,現職日本語教師の中には「公益財団法人日本国際教育支援協会が実施する日本語教育能力検定試験に合格した者」(告示基準第1条第1項第13号ハ)や海外の大学等を卒業した者などで,学士,修士又は博士の学位を有していない者も含まれていることによる機会の不平等への懸念も払拭されたものと思われます。
一方で,必要であれば日本語教育を行う機関が個別に採用の要件として課すことについても概ね賛成いたしますが,結果としてそれがデファクトスタンダードのようになってしまい,学士以上の学位を有していない者が就職において極端に不利とならないよう制度設計側としては制度開始時の説明資料等の中であくまで学歴は不問であることを明記しておく必要があるのではないかと思います。
12.「○日本語教師の資格について―10. 現職日本語教師等の資格取得方法」について
まず「現職日本語教師等」という用語について,脚注(※4)で「日本語教師の資格の在り方について(報告)」の経過措置を参照していることからも,現在機関に所属しているかどうかに関わらず,いわゆる現行の有資格者要件と呼ばれる「日本語教育機関の告示基準」第1条第1項第13号イからホのいずれかに該当する者すべてを含むものと理解していますが,この認識に相違はないでしょうか。そうであれば「現職」という響きが現在機関に所属している者のみを指すものと誤読される恐れがあるため,報告書の本文中にも「現在機関に所属しているかどうかに関わらず」という文言を加えるか,「現行の有資格者(要件を満たす者)」といった表現に改めたほうが分かりやすくなると思います。
一方,現行の有資格者であっても長く現場を離れているケースなどもあることから,もし現在機関に所属している者のみに限定するというような趣旨であるのならば,少なくとも「日本語教育機関の運営に関する基準」(旧基準)から「日本語教育機関の告示基準」(新基準)に運用が変更された際の教員要件の考え方を参考にしていただきたいと思います。新基準では「日本語教育機関の告示基準解釈指針」で,たとえば旧基準で認められていた「学士の学位を有する者及び高等学校において教諭の経験のある者で学校,専修学校,各種学校等における日本語に関する教育若しくは研究に関する業務に1年以上従事した者」などの旧有資格者についても,「学士,修士又は博士の学位を有し,告示基準の公表日から遡り3年以内の日において留学告示別表第1,別表第2及び別表第3に掲げる日本語教育機関で日本語教員として1年以上従事したことがあり,かつ,3年を超えて留学告示別表第1,別表第2及び別表第3に掲げられた日本語教育機関の教員の職を離れない者で,そのことを日本語教育機関が発行する証明書等において確認できる者」に関しては継続して新基準に基づく要件を満たす者(現行の有資格者)と「同等以上の能力があると認められる者」として救済措置が取られています(告示基準第1条第1項第13号ホ)。
このように新しい基準・制度を制定・創設する際には,それまで有資格者であった者が急に無資格者になってしまうことのないよう最大限の配慮をすべきであると考えます。これが「現行の有資格者要件」という枠組みは変更せずに維持し,あくまで称号や上位資格としての公認日本語教師であるという建付けならば,国家資格であるという点で日本語教師の質の担保という観点からも配慮がなくても一定の理解はできます。しかし,公認日本語教師制度が創設されてからは「現行の有資格者要件」という枠組みが維持されないという建付けなのであれば,経過措置・救済措置は確実に必要なものであり,異議を申し立てます。
確かに日本語教師の質の担保・向上を謳うのであれば,現行の有資格者が全員そのまま公認日本語教師に無条件で移行することに戸惑いや懸念があるという指摘も理解し,共感もします。しかし,それであれば現行の有資格者が移行できる「准公認日本語教師」や「公認日本語教師(乙種)」などの種別を設ける,公認日本語教師を任用資格に留める又は現行の有資格者要件を任用資格に引き上げるなど,考え方は幾通りもあると思います。それを考慮せず,「原則として筆記試験合格及び教育実習履修・修了の要件を満たした上で公認日本語教師の資格を取得することとする」(p. 8)と一律に定めることは,現職日本語教師等(現行の有資格者)のこれまでのキャリアを全否定するに等しく,講習や研修などを積極的に受講するなど自主的に行っていた努力も無に帰す残酷な制度設計であると言わざるを得ません。
そのうえ,機関の質の保証が必要だから評価制度を創設するという一方で「質が担保されている機関で一定年数以上働く等」(p. 8)という評価制度のない時代の質の担保を持ち出すのは矛盾した配慮であると感じます。仮に先に機関の評価をした上で個人の配慮を行うということであれば,配慮を希望する場合,制度開始時には受験できない可能性もあり,機会の平等の観点から相応しくないと考えます。また,配慮がある場合であっても,「教育の現場における実践的な資質・能力が担保される者に関しては,教育実習の免除などの配慮を検討する」(p. 8)とされているのみで,筆記試験の免除については検討の可能性すら触れられておらず,さらに「実践的な資質・能力の確認方法については慎重に検討を行う」(p. 8)と留保を重ねており,これまでの養成の質が大きく問われる表現となっていることが気にかかります。
13.「○日本語教師の資格について―11. その他」について
前項において上述したように,現職日本語教師等(現行の有資格者)に対する資格取得の在り方次第ではプラスではなくマイナスの動機付けになる恐れもあり,「今後検討」(p. 8)の内容を法案の検討の前に行っていただくべきだと考えております。前回の意見募集で国民から提出された1,397件の意見を踏まえて取りまとめられた「日本語教師の資格の在り方について(報告)」での「経過措置」(Ⅱ―2.【8】)で「十分な移行期間を設け,公認日本語教師として登録を行えるようにすることが適当である」と提言されたものが,本報告書では「原則として筆記試験合格及び教育実習履修・修了の要件を満たした上で公認日本語教師の資格を取得することとする」(p. 8)となっており,その経緯や理由が明示されていないことにも問題があると思います。場合によっては国家資格に拘る必然性についても改めて議論していただき,本意見募集結果を踏まえて,来年1月からの通常国会への法案提出をいったん見送るなど,あらゆる可能性を最大限に模索していただきたいと強く要望するものです。貴庁の前向きな英断に期待します。ただ,これは決して単なる批判ではなく,当然,当方でお手伝いできることがあれば協力いたしますので,お声がけいただければと思います。ともにより良い資格制度の在り方を検討し,すべてのステークホルダーにとって意義深い資格となることを願っていることは申し添えておきます。
14.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―1. 制度の目的」について
日本語教育を行う機関の質の維持向上のための指標が存在せず,その見える化を行うことの必要性について同意いたします。また,質保証の仕組みづくりも長年求められてきたことであり,公認日本語教師の資格化と双璧をなすものであると思います。
15.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―2. 日本語教育機関の範囲」について
多種多様な日本語教育を行う機関の総称として「日本語教育機関」という用語を用いていますが,現状で単に「日本語教育機関」と言った場合,いわゆる法務省告示校や法務省告示日本語教育機関と呼ばれる日本語学校(法務大臣が文部科学大臣の意見を聴いて告示をもって定める日本語教育機関)を指すことが多いため,具体的に指し示す機関の区別が分かりにくく,紛らわしいと感じます。当然,日本語教育機関は法務省告示校の日本語学校のみを示す用語ではありませんが,報告書においては混同を避けるため,すべて前項のように「日本語教育を行う機関」とするか,「日本語教育実施機関」や「日本語教育(実施)施設」などを総称として用いることが望ましいのではないでしょうか。
日本語教育の推進に関する法律に基づく用語として「日本語教育機関」を用いているのであれば,法では「日本語教育の水準の維持向上を図るために必要な適格性を有する日本語教育を行う機関に関する制度の整備」(附則第2条)を検討するにあたり「日本語教育」を「外国人等が日本語を習得するために行われる教育その他の活動(外国人等に対して行われる日本語の普及を図るための活動を含む。)」(第2条第2項)と定義しており,必ずしも「専ら日本語教育を行う機関」に限定する趣旨ではないことから,報告書においても「日本語教育の水準の維持向上を図るために必要な適格性を有する日本語教育を行う機関」を範囲・対象とする必要があるのではないかと考えます。
また,日本語教育を行う機関の範囲を「専ら日本語教育を行う機関」のみに限定しつつ,大学の別科(留学生別科)を含めていないのは疑問があります。たとえば,日本学生支援機構が運営する「政府公認の日本留学情報サイト」であるStudy in Japan(https://www.studyinjapan.go.jp/ja/planning/search-school/nihongokyouiku/)では,留学生別科を法務省告示校の日本語学校と同列に並べ,「日本語学校と同じように日本語を学ぶことができます」と紹介しています。このことは実際に法務省告示校の日本語学校を卒業後に留学生別科に入学することは認められていないことからも,法務省出入国在留管理庁としても留学生別科は最長2年間という在留資格「留学」で日本語教育機関に在籍できる期間の制限に含まれるもの,すなわち日本語教育機関であると認識していると考えられます。
仮にいわゆる日本事情や日本文化の授業,進学予備教育を行うことをもって専らではないとするのであれば,法務省告示校の日本語学校であっても同様の授業・教育を行うことや「日本語教育機関の告示基準」対象外コースを設置することなどが認められており,機関として必ずしも専ら日本語教育のみを行っているとは限らないことから,同様の指摘が可能です。したがってその場合,機関を対象とするのではなく,コースや課程を対象として制度設計すべきということになるのではないでしょうか。
現実には留学生別科が柔軟な運用のもと,設置されている事情は承知しておりますが,上述の理由から「個別の必要性に応じ」(p. 9)て検討するのではなく,「今後の「日本語予備教育を行う留学生別科等の基準に関する協力者会議」での提言とりまとめ等を踏まえ,文部科学省高等教育局や法務省出入国在留管理庁などの関係省庁と調整の上」のような書きぶりで,必要性が高く今後取り組む予定であるが調整段階にあると明示していただきたいと思います。
加えて,「その他の日本語教育を行う機関」(p. 9)がどういった機関を想定しての言及なのか,あるいは「専ら日本語教育を行う機関ではないが日本語の教育を行う機関」のことを指しているのかが明確ではないため,例示するなど分かりやすくしていただければと思います。
16.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―3. 日本語教育機関の類型と申請主体」について
日本語教育の推進に関する法律に基づき,多種多様な日本語教育を行う機関の類型を検討することについては概ね賛成いたします。しかし,「留学」「就労」「生活」の3類型とすることについては疑問があります。「留学生に対する日本語教育を行う機関」「就労者に対する日本語教育を行う機関」「「生活者としての外国人」に対する日本語教育を行う機関」のような形で対象を明示するのであればまだ理解できますが,日本語教育の推進に関する法律では,難民や年少者などに関する言及もあり,そうした方々をどこかに含むものとして考えるのはやや強引であると思います。
別科については「改めて検討する」(p. 9)という方針が可能なのであれば,申請主体としてすでに多く存在しているのは「留学」の枠組みであることから,まずは実質,法務省告示校の日本語学校の再定義である「留学」の枠組みの評価を先行して開始し,順次,検討を済ませてから本報告書で言う「就労」「生活」などの分類に踏み込むほうがすっきりするのではないでしょうか。
17.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―4. 制度の詳細(1)評価制度の性質」について
「機関」を認定の単位とすること,優良機関評価制度を段階的に検討することについて概ね賛成いたします。ただし「2. 日本語教育機関の範囲」についての項目で前述したように機関内に類型を跨ぐコースや課程が存在する場合があることから,複数の類型に申請が可能な制度設計を行っていただきたいと思います。いずれかの類型の認定しか受けられないということであれば,機関ではなく「コースや課程」を単位とすべきだろうと思います。
これについては,たとえば事例として現行の法務省告示校の日本語学校では同一の機関であっても,専ら日本語教育を行う機関として留学告示別表第1に,文部科学大臣が指定した大学入学のための準備教育課程を有する機関として同別表第2に掲げられるなど,別の認定を受けていることからも,必然の制度設計であると考えます。
18.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―4. 制度の詳細(2)評価制度の審査項目」について
「一定数以上の公認日本語教師の配置を必須とする」(p. 10)というのは,必置資格として規定するということでしょうか。また「現職の日本語教師への配慮」(p. 10)とは具体的にどのようなことが想定されるのか例示が必要ではないでしょうか。
19.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―5. 評価主体について」について
評価機関を置くことは賛同いたしますが,「文部科学大臣の指定を受けた第三者機関」(p. 11)はすべての類型を統括する1機関を想定しているのか,類型ごとにそれぞれ1機関ずつを想定しているのか,任意の複数の機関が指定を受けることも想定しているのかで受け取り方が変わってくるため,現段階での想定を明らかにしていただきたいと思います。
その場合,平成22年の行政刷新会議ワーキンググループBによる事業仕分け第2弾(後半)において,日本語教育振興協会が行っていた「日本語教育機関の審査・証明事業」が「廃止」と結論付けられ,法務省出入国在留管理庁が担うこととなった事例などもあることから,チェック体制についてもご検討をお願いいたします。
20.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―6. 類型「留学」「就労」「生活」の全体イメージ(案)」及び「<別紙資料2>」について
現時点で想定されている全体像は別紙2で確認・把握できました。個別の内容に関する意見はそれぞれの項で詳述したいと思います。
21.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―7. 支援について」について
まず,ご支援についてご検討いただき,ありがとうございます。認定機関の情報は「学習者や自治体,企業等」(p. 11)の利用者側の視点はもちろんですが,肝心の公認日本語教師を含む日本語教師や多様な日本語教育人材も就職先を判断するという求職者・労働者の視点からも検索できるような仕組みづくりを検討していただければ幸いでございます。また,さっそく令和4年度概算要求では事項要求ながらもコロナ禍の日本語教育機関への継続支援事業を盛り込んでいただいており,資格の整備等に関してもすでに新規事業予算として8,600万円の要求額を示していただくなど,心強く感じております。
今後の支援の在り方として機関の認定に関して付け加えることがあるとすれば,認定に係る費用負担についてです。たとえば,現行の留学告示に掲げられることを目指した日本語学校の新規開設申請は行政相談という形であり,審査料などは求められません。既存校の告示基準への適合性の点検報告についても同様です。当然,基準を満たしていることを立証する書類や資料の準備には直接的・間接的に費用は発生しますが,審査料などが不要であるというのは重要なことだと考えています。したがって,現行の告示基準の枠組みと同様に最終的に在留資格認定証明書交付申請等に紐づく機関の認定となるのであれば,審査料などは不要であるべきだと思います。仮に文部科学大臣が第三者機関を指定することにより審査料が必要となるのであれば,その経費を補填するという形式での支援もご検討ください。
22.「○日本語教育機関の水準の維持向上を図るための仕組みについて―8. その他」について
手続の簡素化の必要性については概ね同意いたしますが,一方で,質保証のための機関の認定であることを考えれば,制度の創設時には厳格であるべきだと考えます。現行の資格要件を満たす者の経過措置による公認日本語教師への登録が質の保証の観点から認められないとすると,そのような日本語教師が勤務していた機関の質も同時に保証されるものではないと考えるのが自然であり,ともにゼロベースで制度設計すべきであると考えられます。したがって,これまで類似の認証を受けていたかどうかに関わらずすべての機関に対して厳格な審査ののち数年ほどは毎年の更新を求め,認定を更新するにつれ,3年ごと,5年ごとと認定期間を延長していくような形式が望ましいのではないでしょうか。
一方で,日本語教師と日本語教育機関は表裏一体の関係であるはずで,簡素な認定で済む類のものであれば現行の告示基準を準用すればよく,新制度を創設する必然性に欠けるようにも思います。
また,各日本語教育機関・団体の密な連携については大いに同意いたしますが,分野横断的な業界団体がないため,「公認日本語教師協会」のような業界全体を束ねる組織の新設が求められます。