日本語教育機関の告示基準の一部改正に対する意見

2019年4月26日(金)~2019年5月27日(月)に実施された出入国在留管理庁の日本語教育機関の告示基準の一部改正についての意見募集にありのすとして以下の意見提出をしました。
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日本語教育機関の告示基準の一部改正に対する意見

令和元年5月27日

出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課御中
ありのす 主宰 真野 蟻乃典
https://arinos.website/

 お世話になります。ありのす主宰の真野蟻乃典と申します。
 ありのすでは,日本語教育とその関連領域を中心とした各種情報の発信・共有を行っております。そうした視点から,また現職の日本語教員の立場から「日本語教育機関の告示基準の改正」について,意見を提出いたします。

●改正の内容について
1.「(1)在学状況が良好でない留学生の勤務先の報告に係る基準の追加」及び「(2)資格外活動許可を受けている留学生の勤務先の届出基準の追加」について
 資格外活動の許可(以下,資格外)を受けている留学生について,在籍管理を徹底する方針に関しては概ね賛成いたしますが,勤務先の名称のみではなく週稼働時間や雇用契約期間などの勤務実態も同様に申告させる必要があるのではないでしょうか。資格外を受けている留学生の中には,週28時間を遵守しつつも複数の勤務先で稼働している者や勤務先を定期的に変更する者などもおり,名称のみの届出では1か所のみを申告するケースや勤務先を変更しても申告しないケースなどの発生が想定され,不十分であると考えられるからです。
 また,厳格にこれを運用するためには,留学生側からの自主的な届出のみに頼るのは限界があり,これまで以上に勤務先からの理解・協力や勤務先との連携・連帯が必要となるように思います。つきましては,貴庁側からの留学生の勤務先となりうる企業側への本基準の追加についての周知・説明を含んだ広報をお願いしたいと思います。

2.「(3)留学生の日本語能力に係る試験の合格率等の結果の公表及び地方出入国在留管理局への報告,並びに当該結果が良好でない場合の改善策の報告に係る基準の新設」について
 教育の質の確保を目的として日本語教育機関に何らかの基準を新設することに関しては概ね賛成いたしますが「大学等への進学者の数又は日本語能力に関し言語のためのヨーロッパ共通参照枠(以下,CEFR)のA2相当以上のレベルであることが試験その他の評価方法により証明されている者の数」に依ることには疑問が残ります。
 理由としては,まず「大学等への進学者の数」の部分から日本語教育機関の卒業後には「進学」を前提としているように読み取れますが,必ずしも「進学」のみを目的としている日本語教育機関ばかりではないことが挙げられます。この点は翻って考えると進学者であれば日本語能力を問われないとも読み取れ,疑問があります。また,「大学等」の「等」が指し示す機関が具体的でないため解釈が分かれる可能性がありますので,その点は明示していただきたいと思います。
 次に「日本語能力に関しCEFRのA2相当以上」と設定されていることに関してですが,なぜCEFRなのか,なぜA2なのかが本改正基準からは読み取れません。現状,在留資格認定証明書交付申請において,すなわち日本語教育機関への入学に際しては,日本語能力に関して「日本語能力試験N5相当以上」を証明する必要があります。これは日本語能力試験を含む10種類の試験の合格証書又は現地機関において発行される150時間以上の日本語学習証明書の提出をもって証明するものとされていますが,一方で日本語教育機関の卒業時には「CEFRのA2相当」で証明を求めることの理由を明示していただきたいです。
 最後に,「試験その他の評価方法」が指し示す内容が不明瞭に感じます。「試験」ということであれば,上記10種類の試験とCEFRの対照を示す必要があり,「その他の評価方法」としては日本語教育機関が独自に作成・発行する日本語学習証明書等において「CEFRのA2相当以上」を認定することも可能となるということでしょうか。
 また,適用は「平成31年10月1日以降に入学した者に限る」としていますが,こうした課題があるなかで既に在籍している留学生も対象となるのであれば,なおのこと曖昧なままでは対応に苦慮することとなるのではないかという危惧があるため,基準改正後に入学する者に限ることはできないのでしょうか。
 なお,本意見は「CEFRのA2相当」を基準とすること自体に疑問があるのではなく,日本語教育機関における日本語能力ないし日本語教育能力をどのように考えるのか,という視点からの指摘であり,少なくとも入口と出口の基準を統一していただきたいという趣旨です。「日本語能力試験」を基準としなかったことについては概ね好意的に捉えております。

3.「(6)抹消の基準の追加」について
 日本語教育機関の質の向上を目的として抹消の基準を厳格化することに関しては概ね賛成いたしますが,上述の課題の解消がなされないままに,特に「大学進学者等及びCEFR・A2相当と認められる者の合計の割合が3年連続で7割を下回ったとき」を基準として適用することに疑問が残ります。「今後のスケジュール」においては「平成31年7月1日運用開始」とありますが,この基準に関しては上述の課題の解消のめどが立つまでのあいだ「附則」において適用日を延長するのが妥当であると考えます。
 また今回の改正における厳格化について在留資格認定証明書交付申請において除籍・退学者が10人を超える場合において申請書類を厳格化している運用との関連性ないし整合性を明示していただきたいと思います。

 上記の各意見について修正ないし解釈指針などで補足していただきたく,ここに意見提出いたします。

以上

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